その昔、この地区は「村椿」さらに昔は「玉椿千軒」と呼ばれていた。千軒とは家がたくさん並び、とても栄えていた場所のことである。
その中心にある白鳥神社は、かつて「椿大明神」とも呼ばれていた。今も境内には椿の木が植えられていて、玉椿の名とともに多くの人に慕われている。
そんな椿の伝承地に、八百比丘尼にまつわる物語が残っている。
その昔、玉椿千軒の村長が京都に旅した時、一人の武家と知り合い、同じ宿をとるほど懇意になったという。
別れ際にその武家は、自分が越後国の光明山に住む三越左衛門という名の1000年生きた狐だと明かした。そしてまた玉椿の地を訪問したいと告げた。
村長もその申し出を快諾し、三越左衛門はたびたび玉椿をおとづれた。
そして心置きなく語り合えるようにと、玉椿の裏山に邸宅を建てる。
その新築の祝いに懇意となった数名の客を呼んだが、出てくる料理はそれは珍しいものばかり。
中でも左衛門が勧めたのは「人魚の肉」だ。しかしみな気味悪がり、こっそりと袖に隠し食べたふりをした。
やがて宴が終わり帰る途中で、皆その肉を捨ててしまった。
左衛門は「もっと長い年月を語り合えるようにと人魚の肉を振る舞ったのに、人間はやはり疑い深い生き物なのか」と残念がり、それ以来姿を見せなくなってしまった。
ところが・・・
ただひとり、村長だけは人魚の肉を家で処分するつもりで持って帰ってきた。
しかしそれを捨てる前に、娘がその肉を食べてしまったのだ。
それから娘は全く歳を取らず病気もしなかった。結婚もして子供ももうけたが、子供たちが歳をとり亡くなってもまだ若いままだった。
やがて彼女は尼となり、手に椿の花を持ち全国を巡り、800歳になる頃、若狭の寺で入定したという。
実際に荒保に行ってみました。その時のことをエッセイ風に書いてみましたので、よろしければご覧ください。
娘が八百比丘尼となるまでの話が詳細であるが、古狐と人間との関わりが主体であるのは特徴だと思う。
越後国（新潟県）の光明山に住む狐の伝承ははっきりしない。
もしかすると、異なる地方出身の人同士（集団同士？）の交流をもとにした伝承なのかもしれない。
また、玉椿出身の八百比丘尼は方々で椿を植えたという話も残っている。この地方では海岸などに椿が群生していることも多いので、そのことが八百比丘尼の伝承と混ざり合い、伝えられているのかもしれない。
